Aさんは15年ほど前から中古車の販売を始めました。
会社を興してから5,6年後に、輸出や部品販売、板金塗装など仕事の幅を広げようと思い、銀行から1億円、お金を借りました。また会社を立ち上げてから7,8年位は多少の儲けがあり、借金の返済に困ることはありませんでした。

このように儲けが出ている時期に、積極的に手を広げました。中古車の販売だけでなく、車の部品取りの仕事も始めました。そこで、本社とは別に県内に支店を作り、従業員も2人雇いました。支店では、家賃が月25万円くらい、従業員2人分の給料が月50万円くらいかかりました。しかし、支店での部品取りの商売はうまくいかず、その後、本社と同じように、支店でも車の販売を始めましたが、これもうまくいきませんでした。そのため、支店は2年後に閉めました。
その後、本店で、海外への車と部品の輸出を始めました。お客からリストをもらって、車と部品を海外へ送りました。Aさんは、この事業に1500万円から2000万円を投資しましたが、聞いていた話と違って、海外向けの車の販売はうまくいかず、投資金額はほとんど回収できませんでした。この商売は1年くらいでやめてしまいました。

それから、また次の年に別の支店を作り、塗装のできる従業員を2人雇って、車の板金塗装を始めました。この支店では、家賃が月30万円、従業員2人分の給料が月70万円くらいかかりました。1年ほど、事故車を買い取って修理・塗装して売っていましたが、その売上は従業員に払う給料と家賃とを合わせた額よりかなり少なかったためやっていけず、この支店も2年弱で閉めました。

6年ほど前から車が売れない不景気も重なり、Aさんの事業の利益はまったくなく、借金の返済も難しくなってしまいました。
4年ほど前から、何とか利益を上げようとリサイクルの仕事も始めました。使われなくなったエアコン、バッテリー、自転車などを集めて海外に輸出している会社があるので、Aさんが軽自動車で集めて回っている人からこれらを買い取り、その会社に売る仕事です。この仕事をするために、本社の近くに別の場所も借りました。ところが、最初の頃は高く売れていたものの、世界経済の悪化の影響もあり、その年の秋頃からまったく売れなくなってしまいました。Aさんが買い取った商品の全てがほとんど価値のないものになり、多くの損失を抱えてしまいました。

Aさんは、これまで借りてきたお金の多くを、従業員の給料や店の家賃に当ててきました。銀行からの借金を返すために、Aさん個人のクレジットカードでもお金を借りました。
この当時、県内の本社の家賃が月30万円、ガラクタ置き場(商品である中古車が置いてあります。)の賃料が月21万円かかっており、この他に借金の返済など、売上がないためとても払っていけなくなりました。
長年色々試して休まず頑張りましたが、この不景気や円高の影響も受け、Aさんの事業は全く成功しませんでした。

Aさんはその後、弁護士に相談し、会社とともに破産を申立てることを決めました。その後、会社は異時廃止(財産がない手続きで終了)、Aさんも免責決定を得ました。

積極的に商売の手を広げ、失敗はしてしまいましたが、車が好きだから、もう一度車の会社で働きたいなと笑って言っていました。

以上