紛争の内容

1 大手製薬会社の早期退職制度の利用

依頼者は、大手製薬会社に勤務する会社員時代に、結婚し、一戸建てをローンを組んで購入しました。

実家暮らしだった独身時代の依頼者は、給与はほとんど使ってしまい、預金はなかったとのことです。

売り出された一戸建てを3200万円で、購入しました。

その際には、頭金100万円を用意し、残りの金額について住宅ローン組める金融機関が一つの金融機関しかなかったとのことです。

そして、元金3100万円、35年ローン、変動金利、月額9万円の支払い、ボーナス時毎回24万円でローンを組みました。

ボーナス時の返済が大きいですが、大手製薬会社に勤務していた依頼者は、ボーナスとして基本給の3か月分を夏と冬の二回で、多い時には一回のボーナスが100万円以上出たこともありますし、また、夫婦共働きでしたので、十分に返済でき、また、依頼者自身の口座に、その支払い分の残高は十分に維持していたとことです。

しかし、依頼者は29年間勤務した大手製薬会社を、早期退職制度を利用して退職しました。

退職金2倍による、退職勧奨があったとのことです。

また、勤務先の2割以上の従業員が早期退職したそうです。

その際に、依頼者が受け取った退職金は3000万円だったとのことです。

この退職金の使途は次のとおりです。

クレジットカード会社など5社の借入合計が、600万円くらいあったそうで、その支払いに充て、完済しました。そして、依頼者は、住宅ローン残高の繰り上げ返済をしようと考えたそうですが、借入金融機関の担当者から繰上げ返済を固辞され、当時の住宅ローンの残金残1800円の半額の900万円を支払ったそうです。

さらに、同金融機関から投資信託を勧められ、残りの金額から500万円分投資信託を購入し、残りは、預金としました。

2 転職先での体調不良

依頼者は、転職先として、やはり、製薬企業を選んだそうです。

転職先では、手取り22万円、ボーナス年2回、各回は、基本給の2か月分の雇用条件でした。

2018年12月に入社しましたが、その転職先内で、同僚からの嫌がらせなどを受け、年明けには、出社が困難となり、出社しても翌日は休むということが繰り返され、翌2月から、私傷病での休職となりました。

3カ月休職し、4月半ばに職場復帰しました。

依頼者は、配置転換をしてもらいましたが、休みがちだったとのことです。

適応障害の認定を受けていましたが、休みがちであったことから、当時の上司から強い退職勧奨を受け、再就職した9か月後には退職したそうです。

3 転職を重ねることによる収入の不回復

自己都合退職でしたので、失業保険もでませんでした。

その後転職を繰り返しました。収入も回復せず、無職期間がありました。

転職先の候補先として、県外の企業がありました。

自動車通勤となるため、自動車を購入することとしました。

当時の依頼者は、カードローンも抱えていたので、新車ローン審査が通らないと思っていたのですが、懇意のディーラーの方を通じてローン審査をすると、審査が通り、300万円新車購入となりました。この月々の負担は8万円です。

しかし、通勤用の新車を用意しましたが、県外の企業への就職も決まらなかったそうです。

4 借り増し

住宅ローン負担、車のローン負担が増えたことにより、せっかく完済したカードローンの利用を再開し、ローン支払いが増えていきました。

また、依頼者は、無職無収入の期間でありながら、子供をドライブに連れて行くなどしていたため、そのガソリン代負担も増えました。

5 前任の弁護士への債務整理依頼、担保物競売

この多重債務状態を解消するために、債務整理を他の法律事務所に依頼したそうです。

住宅ローン付きの住宅を維持したかったことから、住宅ローン特則付き個人再生を依頼しました。

住宅ローンは債務整理の依頼をするまでは支払い続けていましたが、債務整理を依頼した弁護士さんによれば、住宅ローンの支払いを止めてもよいようなアドバイスだったので、よくわからず、住宅ローンの支払いを止めてしまったそうです。

当然ながら、滞納が進み、住宅ローンの債権回収会社が自宅について担保物競売の手続をとりました。

令和5年10月初めに、裁判所から競売の通知を受けました。その月の18日には、執行官が自宅を訪問されました。

6 リースバックの選択

競売手続の開始決定を受け、多くの不動産業者から任意売却の打診がありました。

自宅での生活を維持するという方法として、買い取った方から、賃借するというリースバックがあると知りました。うち一つの不動産業者に依頼して、買取業者を探してもらい、買い取った会社を賃貸人として、妻が賃借人として、賃貸借契約を結び、現在に至ります。

7 その後、改めての債務整理

自宅の売却により、住宅ローンを完済し、余剰も出ましたが、その他のローンがありました。

個人再生利用のために再就職はしていましたが、子供の進学時期と重なり、教育費の負担はあと数年続きます。

そこで、破産手続を選択しました。住宅売却し、住宅ローンを完済した残金がありましたので、これを当事務所に預け、破産管財手続をとることになりました。

交渉・調停・訴訟などの経過

依頼者は、住宅ローン特則付き個人再生を望んでいましたが、住宅ローンの支払いを長期にわたり滞ってしまったために、競売手続にかけられてしまいました。

自宅をそのまま使用したいため、リースバックにより、賃借し続けることを選択しました。

その後に、当事務所に相談に見えられ、自己破産することを選択され、準備を整え、申立を行いました。

管財人が選任され、自宅売却後の住宅ローン支払いをした残った現金を管財人に引き継ぐ形となりました。

本事例の結末

依頼者は、複数の保険契約もありましたので、そのうち、どうしても維持したいものと、子供の教育費に備えた分(進学希望の学費を調べたうえで)について、自由財産拡張の申立てを行い、管財人から相当の意見を得て、99万円の限度内の現金を手元に置くことができました。

そして、管財人の調査の結果、浪費にあたる部分もあるが、今回に限り、経済的更生のために免責を許可するのが相当との意見が出、裁判所は依頼者の免責を許可しました。

本事例に学ぶこと

依頼者は、そもそも、住宅ローン特則付き個人再生を希望していました。

そのために、再就職も果たし、妻の協力を得て、堅実な家計の実現に努めていました。

しかし、依頼した弁護士との意思疎通にかけたのか、住宅ローン支払いの余裕があったにもかかわらず、それを長期間支払わず、また、住宅ローン会社からの督促の通知も無視して、競売手続に進んでしまい、個人再生手続きをあきらめざるを得なくなったようです。

当事務所では、個人再生手続が運用された当初より、十分な経験を積んでおり、的確なアドバイスができることを自負しております。

住宅ローン特則付き個人再生を希望している本依頼者が当初より当事務所に相談され、ご依頼されていれば、住宅は手元に残せたはずです。

免責が許可されたとはいえ、依頼者は不運な方だったと同情します。

相談者、依頼者の方は納得いくまで、疑問点を相談し、また、弁護士のアドバイスに従い、所期の目的を達するよう二人三脚で頑張りましょう。

弁護士 榎本 誉