紛争の内容
フリーターのAさんは、高校卒業後実家を出てアルバイトで生計を立てていましたが、両親からは幼いころから虐待を受けており、折り合いが悪い状態が続いていました。
進学時、親に学費の保証人になってもらったことはあるものの、別居後も親から金を無心されたり、引っ越し先を秘密にしていてもどこに住んでいるのか探られるなどの経緯があったため、警察や市役所に相談して、両親には住所を秘密にする支援措置をとっていました。
その後Aさんは勤務先の人間関係から精神的にうつ状態となってしまい、仕事を辞めざるを得なくなってしまいました。
そのため、生活費などを稼ぐことができず、借金をしたほか、分割払いしていた過去の学費未納分も払えなくなり、遂に生活保護を受けることになりましたが、生活保護になると借金の返済はできなくなるため、弁護士に相談して破産手続をとることになりました。
交渉・調停・訴訟等の経過
Aさんが懸念していたのは、債権者の中に自分を虐待し、住所を秘匿にしていた両親がいたことでした。親は学費の保証人になっていましたから、破産手続の中ではこの親も債権者という扱いになります。
そこで、近時法改正により新たな制度として誕生した「秘匿制度」にて、裁判所の申立てにかかる本人の住所を秘匿する制度を使い、また閲覧等にも制限を付けてもらうことで、破産手続においても債権者たる親に住所を秘匿することにしました。
本事例の結末
申立ての結果、Aさんは役所で支援措置を受けていたことなどを裁判所に説明し、秘匿の必要性・相当性を認定してもらって無事債権者の1人である親に自身の住所を秘匿する形で破産手続を進めることができ、Aさんは免責許可決定も得ることができました。
本事例に学ぶこと
破産をされる方には、様々なご事情を抱えている方がいらっしゃいます。
DVで避難中などが典型的ですが、債権者の中に、避難先住所を開示されることを懸念して破産手続をすることに躊躇される方もいるかもしれませんが、そのような方にはこの秘匿決定を得ることで手続が可能になるのではないかと感じました。
弁護士 相川 一ゑ