紛争の内容
多額のトレーディングカードの購入などで約2000万円の負債を抱えた債務者は、亡母の遺産分割未了の財産として、実妹家族が住む一戸建て住宅、遺産預金を有していた中で、破産手続が申し立てられました。管財人として、換価財産を債権者に配当し、終結した破産管財事件。
交渉・調停・訴訟などの経過
元大手金融機関の銀行員だった債務者は、体調悪化もあって、激務に耐えきれず、銀行内で降格となり、また、当時の婚約者との婚姻も破談となり、自暴自棄的に、トレーディングカードをセット購入するようになったとのことです。
銀行員時代のボーナスは、夏冬各回100万円以上得ていたということですが、それでも足らずに、クレジットカードやキャッシングを利用して、多額のカード類の購入をしました。
このトレーディングカードは、AKBなどのタレントのものや、日本のプロ野球、メジャーリーグのプロ野球その他Jリーグサッカーなどのカードが対象でした。
破産者は、このカードを発売日に、カードショップに搬入される段ボール箱ごと購入し、目当ての稀少性のあるカード、レアカード、激レアカードなどを得ることを目的に、同業の方々と競って購入したとのことです。
返済資金の捻出のため、高額に売却できるカード類は、インターネットオークションを利用して売却し、ときには1枚が10万円にもなったカードがあったそうです。
しかし、破産申立て時に手元に残ったトレーディングカード類は換金困難なものとの申告がありました。
遺産分割未了の不動産については、破産者の共有持分については即座の換価が困難であるとしても、自由財産拡張の対象となりません。
そこで、遺産不動産について査定を取り、共同相続人の方々に、破産者持分の買取を求め、提案しました。
しかし、同持分を査定額の共有持分相当て購入するという回答はありませんでした。
遺産預金についても、被相続人と同居していた共同相続人に情報提供を求めましたが、これも回答ありませんでした。
そこで、破産裁判所の許可を受け、共同相続人の住所地の家庭裁判所において、遺産分割調停を申立てました。遺産不動産については、居住している実妹に購入してもらいたいこと、遺産預金については、調査の上、法定相続分で各取得することを目指しました。
預金については、二つの金融機関に口座があることが判明し、それを法定相続分で取得することとしました。管財人が預金を全額取得し、他の相続人は法定相続分相当額の代償金を受け取る一部分割の調停を成立させました。
また、遺産不動産については、破産手続の早期終結と、相当額の配当原資の獲得を目指し、これも居住している実妹が現物取得をし、相当額の代償金を支払う方向で協議を重ねましたが、もう一人の共同相続人は不動産査定額を基準とした相続分相当の支払いを求めましたので、協議は整いませんでした。
しかし、破産者持分については、相続分譲渡の手法で対応することとなり、相当額の代償金支払と引き換えに、裁判所の許可書付きの相続分譲渡証書、管財人の印鑑証明書を交付するのと引き換えに、固定資産評価額を基準として算出した金額から、相応の値引きをした金額で解決となりました。
破産者の賃借家屋の一部屋を占めているというトレーディングカードについては、新型コロナウィルス禍においては、業者の訪問査定ははばかられました。
そこで、破産者のもとに残っているトレーディングカードを仕分けしてもらい、そのサンプル一覧を作成し、破産者旧知のカードショップから独立開業したカードショップに査定をお願いしました。
査定後、買取不可(不能)との査定が出、さらに、手残りカードの商品性がないことの聞き取りを行い、裁判所の手残りカード全数の財団から放棄の許可を受け、配当財団をまとめました。
本事例の結末
債権者には、少額ですが配当ができました。
また、破産者は、破産管財人の管財業務に協力的であったこと、破産者の体調が思わしくないまま、就労を重ねていること、再出発のためには、負債の支払義務の免除を許可することが相当であるとして、裁判所の裁量で免責を許可するのが相当との意見を述べました。
破産者は免責の許可を受けました。
本事例に学ぶこと
遺産分割未了の相続財産がある場合には、他の共同相続人との間で遺産分割協議が整わない場合、裁判所の許可を受けて、遺産分割調停を申し立てることになります。
このような事案では、どうしても管財手続が長期化します。
他方、遺産分割未了が判明したことで、法定相続分を尊重しない遺産分割協議を交わし、不動産については破産者以外の共同相続人への相続登記を済ませる等した場合には、破産管財人からの否認権の行使がなされ、更なる紛争となります。
相続発生後、長期の未分割状態があったとしても、その現状のありのままを相談する弁護士に伝え、その対応を協議することが必要です。
ご自身に有利不利な事情はすべて弁護士に打ち明け、相談してください。
本件では、遺産分割未了であることを申告されており、管財人選任当初より、管財事件の長期化が想定されていました。
遺産不動産を単独取得したいとする実妹がその法定相続分を事実上買い取ってくださいましたので、破産者持分の処理のみで対応し、調停の成立や遺産分割審判まで移行することもありませんでした。
破産手続終了後は、破産者持分については、既に実妹が取得していること、実妹から相続登記への協力を求められたら、免責許可を受けた申立人本人が対応すべきことも申し添えました。
遺産分割未了の財産を抱えている方も、ご遠慮なく、当事務所に債務整理をご相談、ご依頼ください。
弁護士 榎本 誉