紛争の内容
1 多重債務のきっかけ
依頼者は、会社員の夫と3人の子を持つ、パート主婦です。
アニメ趣味が高じて、コンビニエンスストアのいわゆる「一番くじ」にはまり、子供からも心配されるような買い方をされた方でした。
一番くじというは、店舗内にある購入券(チケット)を持ってレジに行き、代金を支払ってから、箱の中のくじを引きます。購入券がなくても、レジに申し出ることで購入可能です。
くじに書かれている商品がその場でもらえるほか、最後の1個を引いた場合についてくる「ラストワン賞」やダブルチャンスなど、追加で賞品が獲得できるチャンスもあります。
くじですので、ほしいもの以外も当たります。これらについては、メルカリなどで転売していました。
返済に窮して、内職に加え、パート勤務を掛け持ちしていました。
2 返済に窮した原因など
依頼者夫婦の長男は、間もなく高校受験を控えた中学生ですが、中学1年の3学期ころから、不登校状態とのことです。家に引きこもって、テレビゲームなどしているとのことです。
依頼者は、学校のカウンセリングを受けていますが、長男は受けていないとのことです。
親御さんとしては、長男も学校に登校し、勉学に励んでくれればと望んでいます。
ところで、長女は小学校時代から、バレーボールに打ち込み、中学でもバレーボール部に入部したいと希望していました。
しかし、破産者の居住する地域の学区の公立中学校には、バレーボール部がないこと、スポーツ少年団のコーチから、バレーボールの強豪中学校への進学も勧められました。
依頼者の夫も、長女が望むなら、サポートしたいとして、私立中学を受験し、めでたく合格し、中学進学とともにバレーボール部に入部しました。
夫婦共働きですが、私立中学の学費の負担は馬鹿になりません。
長男、長女の今後の教育費の負担を考慮すると、浪費によってできた負債をダブルワークして稼いでいる破産者がその再生計画に基づく返済期間が3年から5年間続くことは、正に、長男長女の教育費の負担の増大が継続するころですので、個人再生手続は選択できず、場合によっては、免責調査型の破産管財事件になるかもしれないとしても、自己破産をすることにしました。
交渉・調停・訴訟などの経過
ご依頼を受けた際に、負債の増大となった原因である「一番くじ」のシステムがわかりませんでした。
依頼者は、長女から苦言を呈されるほど、夢中になっていたといいます。
依頼者は、二つの仕事を掛け持ちするダブルワークをしながら、また、申立準備期間中に、夫の転職などもありながら、堅実な家計の実現に努力してもらいました。
また、私立中学に進学した長女も、事情があって、一学期途中から不登校となったとのことで、債務の整理だけではない、お子様の教育問題という難問も抱えていました。
これらについては、お話を聞くと同情するほかなく、依頼者ご夫婦の悩みは尽きないことがわかりました。
しかし、当事務所でお手伝いできるのは、自己破産申立による債務の整理です。
ダブルワークをしながらの申立て資料の準備など負担であったでしょうが、叱咤激励するなどして、ようやく申立準備が整いました。
また、申立てに際しては、債務者夫婦が抱えている、長男長女の教育問題などの家庭の問題については、少し詳しく説明し、同情すべき債務者であり、また、浪費行動は再発する危険もないほどであることをアピールしました。
本事例の結末
申立人の浪費が原因であり、明らかに免責不許可事由に該当することから、免責調査型の管財手続きも視野に入れていました。
しかし、当事務所に依頼後、依頼者は、浪費行動を一切やめ、家計簿をつけ続けました。
私立中学進学という教育費の増大もあり、夫婦共働きで経済的に余裕はありませんが、破産者が二つの仕事をし続け、その堅実な就労ぶりと、堅実な家計の実現を見て、管財人の調査指導は不要と判断され、管財事件とならず、同時廃止事件となり、また、目出度く、免責許可の決定が出ました。
本事例に学ぶこと
継続的安定的な収入がある方は、破産ではなく、個人再生の選択も考えます。
特に、その負債により支払不能の恐れに至ったのが、浪費が大きな原因であると認められる場合には特にそうです。
しかし、お子さんの人数と年齢次第では、再生計画に基づく返済期間中、継続的に教育費が増大する時期に重なり、到底、その想定される再生計画が実現する見込みが立たない場合があります。
申立てまでの期間において、依頼者には、過去の浪費行動の原因を究明してもらい、再度の浪費を繰り返さないとして、正直に家計簿をつけてもらい、家計を徹底的に管理してもらいます。配偶者やパートナーの協力も不可欠です。
このような形で、めでたく経済的な再出発がかなった事案でした。
本ご依頼者様の子供さんたちの不登校の解決という問題が残っていますが、負債の債務整理については過去の浪費を反省し、このようなことを繰り返さないという決意で再出発する債務者のため、その債務整理の手助けをすることができました。
弁護士 榎本 誉