紛争の内容

会社員のAさんは、家族4人で生活するための新居として、住宅ローンを組んで新築物件を購入しましたが、その直後から夫婦仲が悪化し、離婚することとなりました。
離婚後、Aさんは自宅で一人暮らしを続けながら住宅ローンを支払っていましたが、妻の収入がなくなったために返済がきつくなり、カードローンなどでお金を借りて住宅ローンの返済に回すようになりました。
しかし、気付けば、返済のための借入を繰り返す自転車操業状態となってしまい、住宅ローンの返済も遅れがちに。
住宅ローンを含む3000万円以上の負債を抱えてご相談に来られた際には、すでに自宅の競売が申し立てられていました。

交渉・調停・訴訟などの経過

正社員のAさんには安定した収入がありましたが、一人で全ての負債を返済するのは到底難しい状況でした。
そこで、破産申立てをすることにしましたが、問題は申立のタイミングでした。
自宅不動産の競売手続きは進んでおり、数か月後にはAさんは転居しなければなりません。Aさんの手持ち財産は自由財産として手元に残せる99万円を超えており、これにボーナスが支給されると、超過分は全て財団に組み入れなければならなくなり、引越費用に充てることができなくなります。
そこで、敢えて競売手続きが完了するのを待ち、転居時にかかる引っ越し費用をボーナスとそれまでの貯蓄から支払った後で、裁判所に破産申立てを行いました。
それでもなお、Aさんの手元に残った現預金は20万円を超えていましたが、今後の単身生活で病気など万一のことがあった場合に頼れる親族がいないこと等を主張し、管財人をつけない同時廃止の手続きで進めてもらうことができました。

本事例の結末

Aさんは無事破産免責を受ける(3000万円以上あった債務がゼロ円になる)ことができました。

本事例に学ぶこと

当初、本件は管財事件となることが予想されましたが、
・競売により自宅不動産がなくなったこと
・Aさんの手持ち資産は、管財事件となるかどうかの基準額(20万円)を僅かに上回るに過ぎない金額であったこと
・Aさんの負債が膨らんだ原因は、家族全員で住むことを計画していた自宅の住宅ローンとその返済に充てるための借入であって、ギャンブルや投資、無駄遣いといった免責不許可事由が一切なかったこと
から、簡易な同時廃止手続きで済みました。
Aさんのこれまでの真面目な生活ぶりが裁判所にも理解していただけたのだと思います。

弁護士 田中智美