紛争の内容

法人代表者は、法人の経営を同僚に委ねていたところ、同人の大病により、事業が立ち行かなくなり、運転資金の借入金の返済に窮した。法人代表者は、法人の運転資金の借入金の保証人でもあるので、住宅ローン特則付個人再生手続きを利用した事案

交渉・調停・訴訟などの経過

代表者は実質的な事業経営からは離れ、会社員となっていたが、同僚が事業の継続を望んだが、保証の引継ぎの点から、代表者の地位を引き継ぐことは固辞した。代表者が事業を離れて数年間は、代表者名義で確定申告も行っていたが、実質経営者の就業不能により、事業の継続は不可能にとなりなった。
事業廃止して間もない法人の破産申立を放置して、代表者の自己破産の手続き開始決定はしないのが、裁判所の運用であるところ、個人再生の場合には、法人代表者による法人破産申立が不可欠かについては、管轄裁判所から明確な回答がないまま、個人再生を申立て、再生委員が選任されました。
法人の状況を示す決算書、確定申告書、報告書を提出し、事実上廃業しており、個人再生債務者の法人への貸付金の実質的価値はないことも説明しました。
個人再生委員は、個人再生手続開始相当の意見を裁判所に提出しました。
その後、担当裁判官の異動があり、新たな裁判官は、法人破産申立の必要があり、その申立がなされることにより、再生手続きの開始を決定するとしました。
そこで、改めて、法人破産申立の委任を受け、管財予納金の積み立てが完了し、個人再生事件申立てに大分遅れて、法人破産の申立てを行うに至りました。
そして、個人再生手続きについても開始決定がなされました。法人の管財人は、個人再生委員と同一でした。

本事例の結末

法人は異時廃止となりました。
個人再生事件についても、小規模個人再生として、過半数の反対がなく、めでたく再生計画案は認可されました。

本事例に学ぶこと

法人の代表者は、法人の事業を廃止せざるを得なくなった場合には、清算手続きをとるか、債務超過であれば、破産手続をとって、会社をたたむのが、経営者の最期の責任といえます。
これにより、債権者は貸付金などの貸倒処理が早期確実に可能となりますので、債権者へのせめてもの誠意の示し方といえます。
個人再生は、過大な債務を圧縮して、住居を維持するよう制度、債権者への最低弁済をするよう制度との調和であり、正に、債務者自身の生活の維持、再建の手段です。目的は違いますが、法人の経営者・代表者である地位にあった再生債務者は、両方の責任を全うすることが必要です。

弁護士 榎本 誉