紛争の内容
本破産者は、個人再生手続きを利用し、再生計画案認可されるも、再生計画に基づく返済をせず、相当期間経過後、破産申立をするに至った事案です。しかも、破産者の財産には、遺産分割未了の、親族居住中の一戸建て不動産がありました。
交渉・調停・訴訟などの経過
大きな問題が二つありました。
1 遺産共有持分の換価の問題
生活保護受給申請中であり、法テラス利用による申立て、管財手続となる。
破産財団に関しては、遺産分割未了財産の扱いについて問題となりました。
共有持ち分相当額を代理人も複数査定し、管財人も複数査定しました。
破産者の持ち分の評価額は、自由財産の拡張を受けうる99万円以下でありましたので、申立代理人は、自由財産拡張の許可を受けうるかと問い、裁判所に確認したところ、次の対応となるとのことでした。
(1) 自由財産拡張の対象とならない(担当書記官限りでは、自由財産拡張を認めた例を知らないとのことです)。
(2) 遺産不動産の評価後、財団組入れ額の協議、組入れの可否、組入れの実現の現実的可能性の有無を検討します。
(3) 財団組入れ不可能の場合、他の共有者(共同相続人)らと共同の売却(任意売却)の可能性の検討します。
(4) 任意売却実現の可能性が欠如する場合、手続き進行との調整により(一部財団組入れと共に)、財団からの放棄許可申請の検討します。当然ながら、十分な理由付けが必要となります。
そこで、破産者には、積立を考慮してもらいました。本破産者は、親族の協力を得て、破産者持分相当額を準備しました。
これを受け、当管財人は、同金額の財団組入れを受け、同共有持ち分については財団から放棄しました。
2 市役所福祉からの返還請求権の法的性質如何
本破産者は、同居親族の就労による収入申告の懈怠などから、市から生活保護法63条、同78条に基づく返還請求権が、破産法上の租税等の請求権に該当するかが問題となりました。
生活保護法は、近年、返還請求権の厳格化のための改正がありました。
同改正法の各公布、各施行の期間中の返還請求権であるため、その返還請求権が破産債権としての処遇で足りるのか、租税等の請求権として財団債権となるのかは、破産者に対する面積の効力が及ぶのかも含めて、慎重な検討が必要となりました。
各返還請求時、同公布施行の各改正法の、附則を調べました。
本件破産者に対する各返還請求権は、いずれも、破産債権に害意等することが確認されました。
相応の財団が形成されておりましたので、裁判所と協議の上、法テラスから管財予納金の第三者予納を受けた分については、法テラスに返還し、その余の財産を当管財人の報酬に充てることとなりました。
また、破産者には、特に免責不許可事由も見当たりませんのでしたので、免責不許可事由は見当たらないとの意見を述べ、終了となりました。
本事例の結末
本破産者は、個人再生当時、保険募集人資格を有する保険外交員でした。夫婦で債務整理をしましたが、夫の収入が不安定で、結局返済ができなかったようです。その後、転職し、就労しつつも、生活保護を受けて生活を維持しました。弁護士に依頼し、法テラスを利用して破産申立に至りました。
本事例に学ぶこと
生活保護法に基づく返還請求権を有する場合、その属性が問題となり、租税等の請求権に該当する場合、免責の効力が及ばないことに注意が必要です。生活保護受給継続中であれば、ともかく、生活再建がかなっている場合には、行政との対応が不可避となります。
弁護士 榎本誉