紛争の内容
破産者は数十年にわたるギャンブルにより、借金を作っては任意整理をして返済し、また借金をつくっては、ということを繰り返していました。また、キャッシュカードで商品を購入してすぐに換金するという行為まで行っていました。これらは、破産法上の免責不許可事由にあたり、裁判所は免責調査型の管財事件として、私を管財人に選任しました。

交渉・調停・訴訟等の経過
まず、申立書を精査していったところ、破産者のギャンブルのための借入れ行為は深刻であることが分かりました。とくに、破産者は健康を害して公的機関や知人等から生活費を借り入れるも、これをギャンブルにつぎ込んでしまうという重度のギャンブル依存症であることが強く疑われました。金額が莫大であり、借入れ態様が悪質であることから、やむを得ず免責不許可との意見を書かざるを得ないとの見通しを持っていました。

しかし、管財人面談の際、破産者は現在に至る事情を詳細に丁寧に反省した様子で説明しました。そして、詳細を聞き取る中で、ヤミ金に手を出してしまい、その返済のために借入れをするという行為によって、莫大な負債を作り上げていったことが分かりました。とはいえ、免責許可を得ても、またギャンブルのために借入れをすることが強く強く疑われました。

そこで、破産者の経済生活の再生のためには、現在の負債を清算することでは足りず、抜本的な対策が不可欠と考え、ギャンブル依存症対策のできる病院への通院をすることを強く勧めました。すると、破産者は、この問題行動を自覚しており、通院治療をすることに積極的な姿勢を示しました。そして、破産管財人である私に対して、きちんとギャンブル依存症治療をしていくと約束しました。

本事例の結末
破産者は、私との約束どおり、きちんとギャンブル依存症対策のプログラムに真摯に取り組んでいました。また、手書きで反省文を書いてもらうことで自分自身と向き合い、問題から目をそらさずに直面している姿勢が見られました。さらに、知人等の個人債権者からすらも、免責に対する意見は出てきませんでした。
そこで、管財人として、裁判所に対し、これらの事情を詳細に説明した上で今回に限って裁量免責を認めても良いのではないかとの意見書を提出しました。
最終的に、裁判所は破産者に対して免責許可を出すに至りました。

本事例に学ぶこと
破産法上、「債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的」とする旨定められています。
事業での失敗や、健康上の理由による生活苦を背景とする破産であれば、破産・免責によって、債務者の経済的再生を図ることはできるでしょう。しかし、浪費による破産の場合には同様に考えることはできません。
その場しのぎではなく、問題の根っこに向き合うことで、破産者の真の再生に繋がるのではないかと考え、本件事件処理にあたりました。この破産者には、もうギャンブルを一切やめ、少なくとも浪費による経済的破綻をしないで生きていってもらいたいと願うところです。

弁護士 平栗丈嗣