紛争の内容

住宅ローン付き住宅を保有する、建築資材運送業の方が、くも膜下出血により就業不能になり、破産申立をした事案
元勤務先に対する未払い金の支払請求、共同事業者に対する未払い金の支払請求、オーバーローン物件の競売手続き中であるが、開始決定時には転居先が確保できていなかった事案

交渉・調停・訴訟などの経過

破産管財人に選任され、破産者を面談し、事情を再確認しました。
くも膜下出血の影響で当分の間、就業不能であり、生活保護を受けざるを得ないこと、親族の住む転居先候補地所在の福祉において、生活保護を受けるほかないとのことでした。
担保物競売手続き中の不動産の査定をとりましたが、破産者の転居先が確保できないこと、転居先の確保と共に保護申請、受給決定を受けることが不可欠のため、任意売却は、引越しのめどがついたら行うこととしました。第1回債権者集会の直前に、期間入札のスケジュールが判明しました。これにより、破産者は、転居先候補地で保護の需給の目処が立ち、住居日・引越し費用の福祉の負担も可能となりました。
しかし、改札期日が集会後余り期間がないこと、査定額も低額であり、立地も特に恵まれているとはいえないことから管財人による任意売却はあきらめました。これらの事情を添えて、破産裁判所には本件不動産の財団からの放棄許可を申請し、認められました。
破産者は、もと勤務先に対する未払い金の請求と、共同事業者に対する未払い金の請求の法的手続きをとるべく、申立代理人弁護士以外の弁護士に相談、依頼をしていましたが、経済的事情から、手続きは中途でした。
関連する資料を確認しましたが、残念ながら、訴訟を提起して、同未払い額の早期の回収を実現できるかは、相手方らの対応次第と見込みました。
各相手方に請求書と、お支払いいただけない場合のその理由などを記入してもらう回答書を添えて連絡したところ、もと勤務先からは代表者から電話があり、トラブルの顛末の説明を受けました。貸付金と、未払い賃金の一方的相殺は不当であるので、未払い賃金分については早急にお支払いいただき、貸付金については破産債権として届けてもらいたいと申し受けましたが、すでに、会社経理処理済みであるから破産手続に対応しないとの返答でした。早期の回収は困難と見込み、破産財団から放棄することとしました。放棄されれば、破産者自身に当該権利は帰属することになりますので、破産手続き後の破産者の判断にゆだねることとしました。
他方、共同事業者にも、支払請求をしましたが、回答書が届き、本請求は不当であり、すでに支払済みであるとの主張でした。破産者と当該事業者の認識が異なりますが、破産者においては、十分な資料(支払約定書、経費の負担約定書など)がないため、訴訟維持が困難と判断し、これも裁判所の許可を得て放棄することになりました。
本破産者には、就業不能はくも膜下出血であり、支払不能は同情できるのこと、負債の原因としても、浪費などは見受けられなかったことから、免責を許可することに障害となる事情はないと意見しました。

本事例の結末

第1回集会で、異時廃止で破産手続き終了となり、また、免責許可されました。

本事例に学ぶこと

未払金の支払請求を、管財人が行う場合には、早期の回収の可否、法的手続きをとり、訴訟を有利に進めるための資料がそろっているか、債務者は支払い能力があるかを総合的に検討します。本件では、残念でしたが、やむを得ませんでした。
本破産者は、手続き中に、今後の生活の本拠の確保、生活費負担の目処が立ち、再出発をする環境を整えることができました。
管財人としての、担当でしたが、このような事案の申立代理をすることも可能です。当事務所に債務整理相談ください。

弁護士 榎本誉