紛争の内容

ご依頼者様は、1年程前、他事務所に依頼して、複数ある借入先のうち一部の債権者との間で任意整理を行いました。
任意整理後、順調に返済を続けていましたが、病気を理由に退職せざるを得なくなり、収入が途絶えてしまいました。
病気のため次の就労も難しい状況の中、返済を続けることができず、ご相談にいらっしゃいました。

交渉・調停・訴訟などの経過

ご依頼者様には、預貯金も収入もなく、医師の判断で就労も難しい状況でしたので、自己破産手続きをとることとなりました。
さて、自己破産手続きで気を付けなくてはならないことに「偏頗弁済」というものがあります。偏頗弁済とは、簡単にいうと、債権者たちに約定の支払いができないときに、特定の債権者だけに不公平な弁済等をしてはならない、という決まりごとです。
もし、偏頗弁済があるとすると、裁判所が破産管財人を選任し、その破産管財人が当該弁済を否認して、お金を取り戻すという手続きがなされる可能性があります。こうなると、手続終了まで時間がかかるほか、破産管財人が選任される事件(管財事件)として、裁判所に追加の予納金を納める必要があります。
一部の債権者と任意整理をし、その交渉の間の支払いを停めたり、債務の総額を減らしたりする一方で、(約定の)満額の支払いを受けている債権者もいるという本件のような場合、この「偏頗弁済」に当たる可能性があるため、慎重に検討する必要がありました。

本事例の結末

結論としては、本件は無事に同時廃止事件(破産管財人の選任されない事件)として自己破産手続きを終え、免責許可決定を得ることができました。
任意整理時には就労しており(任意整理後の)月々の支払い額を返済できる状況であったこと、約1年間は支払いを継続してきたこと、破産に至った理由が病気による失業であること等を考慮されたものと考えられます。

本事例に学ぶこと

 様々な理由から、一部の債権者とだけ任意整理をしたいというご要望をお持ちの方もいらっしゃると思います。
 しかしながら、一部の債権者と任意整理の方針で交渉をはじめたのに結局和解に至らず、自己破産・個人再生に方針替えした場合や、一部の債権者について任意整理後、すぐに支払いができなくなり自己破産・個人再生を検討しなければならなくなった場合等には、上記の通り偏頗弁済が問題となり得ます。
 また、偏頗弁済に当たるとすれば、上記の通り管財事件になる可能性がある他、特定の債権者に特別の利益を与える目的や他の債権者を害する目的があると認められれば、自己破産手続きにおいて免責されなくなる可能性もあります。
 以上の様に、一部の債権者とだけ任意整理することは、大きなリスクがある一方、メリットがほとんどないことが多く、弁護士としては原則勧められるものではありません。

弁護士 野田泰彦